[:ja]te_ri『kasugai low gravity』 オフィシャルインタビュー 【後編】[:]

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3回に渡りお送りしてきたte_ri『kasugai low gravity』オフィシャルインタビュー。後編では新作での達成を踏まえ、バンドが今後目指す方向性を語ります。(文・構成:大久保潤)

■新作の手応え

– 今回のアルバムは、全体としてはポップになった印象がありまして、さらっと聴くとむしろ聴きやすいくらいだと思うんですね。それでいて裏にはこれだけエグい譜面がある。エグい複雑さと聴きやすさのバランスが非常に取れたものになっていると思うので、やってる側からも手応えを感じてるんじゃないですか。

M:前のアルバムはバグを使う以前の曲もあって、過渡期といえば過渡期のアルバムなんですね。今作に関してはすべての曲でバグを使っているので、前より自分の「やりたいこと」と「やれていること」にズレがない。まとまりとしては上手くいっていると思いますね。あと、曲を作るにあたって、今まで参考にしたバンドとか曲とかについて、文献とかで調べたんですよね。図書館に行って。作曲技法にまで踏み込んで過去のものを参照するのは、積極的にやってきてよかったと思います。同世代のバンドで、そこまで作曲に力入れてるのって少ないと思うんですよ。

– そうかもしれないですね。

M:そういったところからも差別化というか、そんじょそこらのバンドじゃないっていう自負はあります。そういった裏打ちはあることはあるんですけど、そこを頭でっかちにならずにできるだけ実際の曲にするときはできるだけほのぼのした感じにしてますけど。

K:大衆演劇くらいに行きたいですよね

M:そうそう、本当に老若男女楽しめるような間口の広さは持ってますけれども、裏ではもうガリガリやってますよ!という。

K:僕は、前作は結構エネルギッシュにやったような記憶があって、それこそスピード感とかパワーも求められてたと思うんです。例えば今はライブをやっても以前ほど汗はかかないんです。曲の趣自体が4年前の作風とは変わってきていて、走り抜けるよりは、音に愛情を持って表現するというか。曲の持つ物語性に対して自分の思いを乗っける表現を、より丁寧にできたかな。一打一打を大切にできたらなと思っています。

M:前作よりも丁寧な作曲にはなりましたね。

K:その丁寧な作曲に対して、僕もそんなに粗いプレイでやるような曲じゃないと理解して、作者に寄り添った演奏を心がけていっているというte_riの10年目の流れがあるんじゃないかなとは思います。

M:編み物みたいな感じがしますね。

K:ああ、それは言い得て妙。

M:ずうっとチクチクやってる感じですね。それで一曲できたら次の服を作るみたいな。 コツコツやってきましたね。

■今後の方向性

– 「機械対人間」というテーマと、ミャンマー音楽の研究成果をどう取り入れていくかっていうことが、おそらく今後の方向性としてはあるのかなと思うんです。まだ新譜も出たばかりなのに今後の話を聞くのもあれなんですけど(笑)、今後さらに突き詰めたい方向性はありますか。

M:今後もバグに関しては、さらに突き詰めたいとは思います。より複雑により不可思議なリズムをソフトウェアを駆使して掴んでいきたい。それとジャズの技法は僕らの通奏低音というか、前からやっているし今もやっている。今後も残ると思います。リズム的に、快不快でいうと不快の部類にギリ入るアプローチをしているので、その揺り戻しとしてジャズ的なアプローチで快の方にちょっと持っていきたい。それでトータルのバランスをとる。

– なるほど。

M:ミャンマーらしさを取り入れるのも、多分今後もやっていくんですけど、そのさらに先にあるのは多分ミャンマーらしさではなく日本らしさだと思います。

– ほう。

M:ミャンマーに実際に行ってみて感じたり、ミャンマーから帰ってきて僕が考えていることなんですけど、どんな音楽をやるにしろ、替えのきかなさって大事だと思うんです。他のバンドとの差別化というのでもありますし、その人・そのバンドでないと聞けないものじゃないと、やる意味はない。そうなってくると、土着性というのが一つの「替えのきかなさ」になると思うんですね。

– ああ、はい。

M:今回ミャンマーのエッセンスは何曲か取り入れてはいるんですけれども、でもやっぱりミャンマーに行って自分のドメスティックなニュアンス、ミャンマーから借りてくるんじゃなくて、自分の国のことを自分でやらなきゃだめだなということを合わせ鏡として思ったんです。ミャンマーに行って、お前はちゃんと自分の国の音楽と向き合ってるのか、ということを突きつけられた感があって。なので、そこらへんは今勉強してます。

– 実際に日本の音楽についての勉強も始めていると。

M:もっと具体的に言うと、伊福部昭からの影響は大きいです。それはミャンマーに行ったから気づいたというのもあります。あとは数年前から海外で演奏することもありまして、そうした時にアジアらしさや日本らしさを排除するよりも、取り入れていった方が受けるんです。それは西洋人がアジア人に求めていることでもあるし、僕らが積極的に取り入れた方がいい要素だと思ったんですね。前に、盛岡でメキシカン・マリンバのコンサートを見に行ったんですよ。メキシカン・マリンバって何だ?と思ったら、メキシコのみで使われていた特殊なマリンバで。普通のマリンバは叩く鍵盤の下に金属の筒みたいなのがあって反響させるんですけど、そこに豚の腸が使われていたんです。

K:ほお(笑)。

M:それで叩くと金管楽器の唇のバシングみたいな感じでブーブー鳴るんですよ。これはその国らしさが出ていて、すごく面白かったんですね。ただ、そのコンサートの一番最後で、なんと「情熱大陸」のテーマをやったんです。俺はそれ、むちゃくちゃ腹が立ったんですね。なんでそこでメキシコの曲をやらないんだと。そこで自分のことに置き換えた時に、そうなんだなと思ったんです。ドメスティックなことをやれば、アイデンティティの一つになるというか、強みになる。ミャンマーに行ったことで、ドメスティックな要素を付与することを、よりやりたいと思いましたね。ミャンマーに求めるんじゃなくて、日本に求めるという。

– なるほど、それはメロディーなりリズムなり。

M:そうですね、ないしは和音なり。

– 片山さん的には、今後te_riで追及していきたいことって何かありますか。今の話を受けてでもいいですけど。

K:作曲は完全に村上くんですけど、リズムを担う部分に関しては常に求められているのは変わらない。そうですね、できればよりいっそう叩かないドラムを目指していけたらなと思うんですけど。

– 手数を減らすということですか。

K:手数というか、埋めるのは、4拍に対して16で叩けば全部埋まっちゃうんですけど、それと全く反対の方向で、叩いていかないというところに行きたい。ドラマーなのに叩かないってすごいと思うんです。非常に難しいんですよね。やっぱりスティック持って座ってたら叩いちゃうので。叩かないということは、叩いた時にものすごく手応えがあるだろう、というイメージでもある。それを含めての叩かないっていうニュアンスなんですけど。

– 隙間を増やすというか。

K:うん、それこそ日本の雅楽のゆったりとした間。音楽ってビートというより時間という概念の方が大きくて、音楽に対して時間の過ごし方をどうしようということをちょっと考えています。譜面を全うする時には常に時間が過ぎていくんですけど、その時間に対してどう過ごそうかっていうのがte_riでの自分の中では裏テーマですね。結構好き勝手にドラムはやらせてもらっている中で、裏テーマを少しずつブレンドして気持ちいところを見つけたい。

■爆音禁止

K:あと、ここ最近のライブとか、録音時もそうですけど、ヴォリュームが小さいんですね。ライブの時も、バスドラの中低域をバンバン出すライブハウスがたくさんあるんですけど、それをもう全部ゼロにしてカットしてもらって、ドラムの中低音がないようにしてもらったりしています」。欲しい情報はそこじゃないので。もっと粒の立つ情報を僕は表現してほしい。それは録音の時もそうで、そもそもだいぶスカスカなのを、さらにスカスカにしてくのが、本望というか、あるべき姿なんじゃないかと。これでラウドでパワフルなロックのニュアンスだと曲が可哀想。曲に対して表現を豊かにしたかったら、削るべき情報は削らないとダメかなと最近は思います。

M:音量に関しては僕も同じ意見ですね。新譜に関しては聞いてて心地いいくらいの音量に設定してもらってます。曲の良さが適正に伝わる音量というか。ライブに関しても、ライブハウスに行くとセットリストの表を書きますよね。そこでPAへの要望はこちらへどうぞみたいな欄があるときには、必ず「爆音不可」って書きます。

– ああー(笑)。

M:音を大きくすることでお客さんが聞いたときに得る情報量が増しちゃうんですよね。それだけ脳みそでそれを処理するのに手間取ってしまう。それは本意ではないので、ただでさえ情報量の多い楽曲なので、音量を削いで曲の複雑さを味わってもらいたいです。

– 曲の内容が伝わる音量にしたいということですね。

M:スカスカ感を大事にしているんですよ。te_riをやる前に他のデュオバンドを結構見渡したんです。すると、大きく分けるとタイプとしては2つしかいなかったんですね。一つはファズとかディストーションをかまして爆音でやる。Ruinsとかヘラとかあふりらんぽとか。

– Lightning Voltとかですね。

M: もう一つのパターンとしては、ディレイとかルーパーとかを駆使して、ギターが二人とか三人に分身して演奏して、そこにドラムがそれに追従するというもの。マーケティングって言ったら言葉は変ですけど、この二つは既にあるから、これじゃないことをやろうと。そうなると、まずギターのエフェクターは無しにする。で、エフェクターを使わないと何ができるかな、というところで和音のアプローチをやってみようと、ジャズとかが出てくるわけです。

– そうか、なるほどね。

M:Ruinsにどうやって勝とうかというのはやっぱりありました。

– 確かに二人バンドって色々いますけど、音色的にte_riみたいなのってあんまりいないですね。

K: だってせっかく二人でやるし、ギタリストなんてエフェクター使ってなんぼでしょ。

M:普通はね。でも、そういうメタな考え方と、自分のやりたいこと、やれることの和集合として、こういうふうになりました。

– その分ギターの音色はすごく気を遣ってる感がありますね。

M: そうですね、音色はおっしゃる通り気をつけています。テレキャスターをクリーントーンでアンプに直で繋いでるんですが、和音を綺麗に鳴らしたいんですよ。そのためのセッティングですね。ちゃんと和音が長調なのか短調なのか、セブンスなのかナインスなのかディミニッシュなのか。そういう細かいところまで、できるだけ生のまま出したいのでああいう形になりました。

– うん、和音が綺麗に鳴る音色ですね。

M:本当はピアノくらいに綺麗に出したいんですよ。ピアノくらい綺麗なことをギターでどうにかできないか、ということをやってます。音作りとして。だから弦をあれこれ試行錯誤しましたね。

– メーカーとか太さとか。

M: そうです、はい。今使っているのはここ2、3年ずっと一緒です

– 作曲技法もそうですけど、ギターのセッティングみたいなところも新譜には現時点での達成点が記録されていると。

M: はいはい、そうですね。

K:CDの様式でも前作今作通じて表現していることですね。前作は紙だし、CDを止めるところもなんか頼りないし(笑)、非常に弱々しいジャケットで。

– 今作のジャケットも特殊ですね。

M:凝りました(笑)。プラスチックケース自体、透明なやつを使ってまして、歌詞カードを差し込むところにプラスチック素材の1枚ペラのカードみたいなのを差し込んでいる。そこ自体にジャケ自体を印刷しています。

– 透明プラスチックに印刷してあると。

M:そうです、それを1枚差し込んでます。それで、CDの盤自体をケースからとると、透明トレー越しにクレジット一覧、曲名とかが書かれています。今回デザイン的に透明なのを重視しました。見た目でスカスカ感を出したかったんです。ギターとドラムだけという編成からして、スカスカなので。

K:情報が少ないということに対してはこだわりがある。

M:情報というか、アウトプットが少ない。目に見える部分が。その裏にはめちゃくちゃあるけども。

K:確かに、欲しい、必要とする、伝えたい情報部分が濃い過ぎるがゆえに他の情報は要らない。

M:人に提示する部分ではね。だからブラック企業なんだよ(笑)。

K:ははははは、まあな(笑)、赤紙を送られてきた僕の気持ちを考えてみるといいですよ。これにドラムつけろって言って、パワハラな上司からメールが来たみたいな。

M:僕ら楽譜のことを赤紙って呼んでるんです。

K:あれが来たら日常生活がちょっと嫌になるんですよ。でもまあ作っていくと楽しい。ライブも好きですけど、おもろさでいうと作曲が一番ですね。本当に面白い。作業というよりは創作活動というニュアンスが近くて。ただ、本当はもっと一緒に演奏したいですね。曲慣れして、アレンジを詰めていけるのが本当はいいんですけど、なかなか環境が許さないです。

M:確かにもっとスタジオには入りたいな(笑)ネットじゃなくて。でも東京にいた時はめちゃくちゃ練習したので。

– その時の蓄積があるから今の練習方法でもなんとかなってるんでしょうね。

K:過ごした信頼できる時期があったからこそ、この遠距離でもやれるというのは確かにあると思います。初めましてでいきなり遠距離でこの曲やれと言われても(笑)。

M:まあ無理だわなあ、僕も無理です。

– 意図を探るところから大変ですもんね。

K:村上くんという生き物がどんな生き物かを知るところから始めないと。それはものすごい道のりですからね。

– 「10年やろう」と言って、10年続けた甲斐のあるものになったということですね。

M:あぁ、そうですねえ。コツコツやってきたのがようやくまとまった感じはしますね。

K:いま言われて、余計にしんみりするというか、ジーンとくるというか、改めて思いますね。

M:僕はあんまりジーンとは来ないけど(笑)。

K:あ、そう? 俺よりドライだね(笑)。まあ、10年になりますけども、これからもよろしくお願いします。

M:はい。[:]

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